B:悠久の大亀 クールマ
アジムステップでは、亀は万年の時を生きる、偉大な動物だと考えられてるんだ。そして、これを狩ることは、大変な名誉とされる。だが、亀とて、簡単には狩られてはくれない。
中でも、幾多の狩人たちを返り討ちにして、長い時を生き抜いてきた大亀がいる。草原の狩人たちは、畏敬の念を込め、その大亀を「クールマ」と呼んでいるんだ。
挑むつもりなら、偉大なる命への敬意を忘れずにな……。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
見渡す限り続く草原に乾いて心地良い風が吹き、草が一斉になびく。遠くには巨大な石で作られた遺跡や湖の真ん中に作られた「明けの玉座」という宮殿が見えるが、ザ・バーンから風に乗って運ばれてきた砂で煙っている。この草原から北の山の中腹までの地域におよそ50を超える部族がそれぞれの伝統や文化を守りながら暮らしている。そのおよそ50の部族がこの草原の代表権を巡り争い、勝ったものがその代表権を手にして「明けの玉座」へと移り住むのだという。
その宮殿から北に向かった地域をテリトリーとして巨大な陸亀が生息している。その陸亀に会う為にあたし達は案内人の先導でチョコボを駆ってやってきた。
案内人に言われるがままチョコボをおりてみる。するとすぐ目の前で足元の草を掻き分けて小さな陸亀が歩いていた。大きさで言うなら15cmほどでとても巨大とは言えない。
「それが幼体だよ」
あたしと相方はしゃがみ込んでその陸亀を見た。薄く尖ったような特徴的な顔つきをしている。この亀は孵化して数年のもので、孵化したばかりのものだと祭りの屋台で見かけるミドリガメくらいのサイズらしい。それが何年も何年も、アジムステップの厳しい野生環境の中で、気の長い年月をかけて体長15mを超える大きさに成長するのだという。ちょっと信じられないほど気長な話なのだが、アジムステップでは亀は万年生きると信じられていることを考えれば妥当なのかもしれない。だが、その万年生きる話も当然ながら確証はない。何故なら、アジムステップには肉食の猛獣や魔獣も多く、またこの陸亀が稀有な存在だけに密猟者からも狙われる。亀にとって天敵の多い厳しいアジムステップの環境で天寿を全うできる亀などいないといっても過言ではない。だとするならアジムステップでは亀は万年の時を生きるとされているが、仮に天寿を全うできたとすれば万年どころではなく少しオーバーかもしれないが億年、兆年生きる可能性も否定はできない。
それだけに体長10mを超えるサイズにまで育った大陸亀はアジムステップに暮らす者たちから神が宿った偉大な生物として畏怖されていて、この亀を狩る資格が与えられることは大変に名誉なことだとされている。その亀の中でもアジムステップに代々伝わる昔話にもその名が登場し、幾度となく亀を狩る資格を与えられた猛者を返り討ちにして齢を重ね続けている、まさに生ける伝説と呼ぶにふさわしい亀がいる。その個体は草原の民からは畏敬の念をこめて「クールマ」と呼ばれている。
クールマは巨大陸亀の中にあってひときわ大きく、堂々とし、迫力もある。他の亀の甲羅にはないおびただしい傷跡は打ち破ってきた猛者たちの置き土産。甲羅から伸びた足で大地を踏みしめ、グッともたげた首を後ろに反らせて相手を威嚇するのだが、その際の地面からその頭のてっぺんまではやはり5m以上はあるという。
「さて…」
あたしは立ち上がって辺りを見渡した。
「どう戦うん?」
相方がしゃがんだままあたしを見上げて聞いてきた。
巨大に育った陸亀は甲羅の他に固い鱗の皮膚をしているので恐らく斬撃や打撃はほとんど効かないし、ミコッテやミドランの中でも決して大きい方ではないあたし達とこれだけ大小差があると、カマキリがカマキリサイズの鎌を猫や犬に振るうようなものだ。魔法だって甲羅を盾に殆ど無力化されるとみて間違いない。だが、あたしには考えがあった。
「聞く?」
相方は興味深げにうんうん頷いた。
あたしが考えた作戦は、とにかく魔力が続く限り甲羅目掛けて火炎系の魔法を叩き込むというものだ。当然一発二発の魔法は効き目がないだろうし、何発叩き込んでも年輪のように厚みを増した甲羅は破壊できないだろう。でもこの攻撃の目的は破壊ではない。とにかく甲羅を熱して熱して、熱せられた甲羅のその熱で亀を蒸し焼きにするのだ。周囲の気温に体温とその活動を左右される冷血動物はおそらく長くは耐えられないはずだ。
「なるほどね」
相方はそういうと納得したように頷きニッと笑った。
この作戦が上手くいくかどうか、あたしは早く試したくてウズウズしてきた。